CO2分離・回収プロセスのエアロゾル計測-ダスト・ミスト-

CCSCarbon dioxide Capture and Storage

二酸化炭素回収・貯留
発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する

出典:経済産業省 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

参考:環境省 (1)環境省CCS事業の成果等について①分離回収技術について資料1-1-1
https://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/ccus2021.html

化学吸収法によるCO2の分離・回収プロセスでエアロゾルが及ぼす影響

化学吸収法
…CO2吸収液の化学反応を利用して CO2を分離する技術で、炭酸ガスを選択的に大量溶解できる液体と排ガスを接触させ、反応吸収の原理によって液体中に CO2を取り込む方法 。
アルカリ性の吸収液にCO2を吸収させるアミン法 モノエタノールアミン法:MEA法の利用が中心 。

吸収塔(CO2分離設備)で、アミン溶媒がエアロゾルに凝集し、ミスト形成を引き起こしてしまう
・吸収塔によるアミンでの CO2分離・回収における効率の低下
・排ガス中に同伴し、微量なミスト状のアミンが大気へ放出
・・・・吸収棟上流側のエアロゾル状況や、アミン種の改良などの対策に対する効果検証のための計測が必要

排ガス中に存在するナノサイズのダスト・ミストの粒径分布計測装置として以下が用いられている。
・電子式低圧インパクター ELPI+
・走査式モビリティパーティクルサイザー SMPS

ナノミスト計測事例①(ベルギー) ~エアロゾル個数濃度と粒径に基づくアミンミスト形成の予測~

吸収塔(CO2分離設備)の上流でELPI+、吸収塔の下流でFTIR(ガス分析装置)を使用し、粒子個数濃度と粒径によって、エアロゾル(ミスト)の形成にどのような影響があるかを確認。

ELPI+のインパクタープレートでの結露は、測定結果の誤差を引き起してしまうため、高湿度の排ガスでELPI+を使用することはできない。そのため、ELPI+に入る前に排ガスを希釈する必要があり、上左図に示すように、1段階の加熱希釈ステップを使用して排ガスを希釈し、測定を実施。

Jan Mertensa; Leonie Brachertb, Dominique Desaghera, Bernd Schallertc, Purvil Khakhariad, Earl Goetheerd. GHGT-12. Predicting amine mist formation based on aerosol number concentration and size measurements in flue gas. Energy Procedia 63 ( 2014 ) 893 – 901. より抜粋


Flue gas1および2には多数のPM /エアロゾルが含まれており、アミンミストが形成され、吸収装置の上部から大量のアミンが排出された。PM /エアロゾルが少ないFlue gas 3は、アミンミストの形成が防止され、吸収塔から出るアミン排出量が非常に少ないことが明らかになった。

ミスト形成を引き起こすのは、排ガスのエアロゾル以外の影響ではないという事実を確認するため、Flue gas 2 filteredは、Flue gas 2のパラメータを一定に保った状態でろ過を行った。その結果、Flue gas 3と同様であり、少ない数値となった。
この結果より、核となるエアロゾルが多数存在すると、ミストが形成され、アミン排出量が多くなることを示した。

Jan Mertensa ; Leonie Brachertb , Dominique Desaghera , Bernd Schallertc , Purvil Khakhariad , Earl Goetheerd . GHGT 12. Predicting amine mist formation based on aerosol number concentration and size measurements in flue gas. Energy Procedia 63 ( 2014 ) 893-901. より抜粋

ナノミスト計測事例②(ノルウェー) ~ モングスタッドCO2回収技術センター(TCM)でのエアロゾル測定 ~

計測の目的
①煙道ガス内に含まれる硫酸エアロゾルやダスト粒子と、アミン排出量との関係の調査。
②排気処理用ブラウン拡散ユニットフィルターの粒子捕集効率を評価。

Gerard Lombardo, Berit F. Fostås, Muhammad Ismail Shah, Anne KolstadMorken, Odd Arne Hvidstena, Jan Mertens, Espen Steinseth Hamborg.  November 2016.  Results from aerosol measurement in amine plant treating gas turbine and Residue Fluidized Catalytic Cracker flue gases at the CO2 Technology Centre Mongstad . GHGT-13, 14-18 より抜粋

計測の方法
①吸収塔(Absorber)上流でELPI+を用いたミストを含む粒子全体を計測し、下流でFTIR、PTR-TOF-MSを用いてアミンの排出量を計測。
②ブラウン拡散ユニットフィルターの上流と下流にELPI+を設置し粒子濃度を計測することで、捕集効率を評価。

計測の結果
①煙道ガス中のエアロゾル個数濃度とアミン放出量の間に強い相関関係がみられた。
 (煙道ガス中の粒子個数濃度が増加するにつれて、アミン排出量の増加がみられた。)
②個数濃度ベースでいずれの条件でも98 %以上の捕集効率が確認された。

エアロゾルに関する記述(一部抜粋)
・計測結果①より、アミン排出量は煙道ガス中のエアロゾルの個数濃度に強く依存することを示している。
・エアロゾルに関連する排出のリスクを評価するには、煙道ガスのガス成分およびエアロゾルのサイズ分布と個数濃度、吸収塔の入口で予想される煙道ガスの
 圧力と温度で測定されたエアロゾル内の微量成分の組成情報が必要。
・TCMでテストされた粒度分布の場合、吸収塔上流の個数濃度が500,000粒子/cm3の時にアミン排出量が6 ppm未満となり、RFCC煙道ガスの操作に許容され
 る。

Gerard Lombardo, Berit F. Fostås, Muhammad Ismail Shah, Anne KolstadMorken, Odd Arne Hvidstena, Jan Mertens, Espen Steinseth Hamborg.  November 2016.  Results from aerosol measurement in amine plant treating gas turbine and Residue Fluidized Catalytic Cracker flue gases at the CO2 Technology Centre Mongstad . GHGT-13, 14-18 より抜粋

ナノミスト計測事例③(日本) ~ CO2分離・回収設備のアミンミスト測定 ~

計測の目的
排煙種の違い(石炭orバイオマス)や、吸収液(アミン種)の違いによるミスト生成への寄与状況やアミン分解性などを調査すること。

計測方法
①ELPI+や、SMPS(走査式モビリティパーティクルサイザー)を用いたミストを含む粒子全体の自動計測
②ELPI+で捕集した粒径別ミストサンプルをLC/MS/MSで分析し、アミン量のみを定量
③PTR-MS、インピンジャ、GC-MSで蒸気状アミンを計測し、アミンの蒸気/ミスト割合を導出。

計測結果
①排煙種の違いにより、ミストの粒径分布に違いが見られた。(石炭>バイオマス)
 入口側エアロゾル量の大小により、出口側のミスト生成へ影響があった。
②新規開発の吸収液は、ミスト状アミンの粒径は、従来式の吸収液と比べて小粒径であることが判った。
③吸収液の違いにより、蒸気/ミスト割合が異なることが判った。
 新規開発の吸収液は、蒸気割合が高く、CO2>洗浄効率も高いことが判った。

Koshito Fujita, Shinji Murai, Daigo Muraoka, Yasuhiro Kato, Hayato Morigaki, Hideo Kitamura, Satoshi Saito, Mitsuru Udatsu, Kensuke Suzuki. 15th 18th March 2021 Abu Dhabi, UAE. Development and Evaluation of New Amine Solvent at Mikawa PCC Pilot Plant. 15th International Conference on Greenhouse Gas Control Technologies, GHGT-15. p3より抜粋

電子式低圧インパクター ELPI+シリーズ

・6 nm~10 μmを14CHで粒径分布濃度測定が可能
(HRモデルは100又は500CHで選択可能)
・最短0.1秒のリアルタイム測定による個数評価・体積/重量評価
・サイズ別のサンプリングが可能

粒子検出の仕組み ~ コロナチャージ×エレクトロメーター~

単極(+)チャージャーにてイオン流を与え続け、粒子は飽和するまで拡散荷電状態となる。
余ったフリーイオンはトラップで回収される。

各ステージ間は完全に絶縁されており、独立したファラデーケージとなっている。
粒子の材質に対する依存性はない。
そこに運ばれた電流が直ちに計測される。


HT-ELPI+[高温対応電子式低圧インパクター]

ex

HT-ELPI+は、チャージャ部およびインパクタ捕集部を最高180℃まで加熱できるので、高温のエアロゾルを冷やすことなくダイレクトに測定することができる。これによりサンプル粒子の水分凝縮等を抑えながら測定を行う。

チャージャ部およびインパクタ捕集部はELPI+本体から分離され、専用のヒータユニットに組込まれる。
HT-ELPI+はオプションで最高500チャンネルの高分解能を有するHR/HT-ELPI+にアップグレードすることも可能。

ELPI+ カスケードインパクター捕集プレート ~ Standard collection plates ~

アルミ捕集板
測定後にサンプルの秤量や組成分析を
希望する場合に使用。(長時間の連続計測は不向き)

シンタード(多孔質金属)捕集板
長時間の測定が可能。
測定後のサンプルの秤量や組成分析は不向き。 

走査式モビリティパーティクルサイザー SMPSシリーズ

・1 nm~1 µmの粒径範囲に適用可能な粒径分布計測法。
・粒径標準粒子の値付けに用いられる高い粒径分級性能を持つ。
・ナノ粒子の持つ「電気移動度(m2 V-1 s-1)」という物性から、粒子径に
 換算する評価手法。
・単分散粒子の分級捕集に活用可能。(別途、サンプラーが必要)

SMPS計測原理 (DMA:粒子サイズ分級部)

・①サンプル粒子(多分散)がサンプルフローとともにDMA内に導入され
 る。
 この時、サンプル粒子は中和器を通して平衡帯電状態である必要がある。
 (注)

・サンプル粒子は②シースエアーと合流し、DMA下流側へ移動する。
 ※サンプルフロー/シースフロー = 1 / 10 が基本設定。

・DMA内部の③高電圧ロッドには可変電圧が印加されている。
 ※負極印加が基本( -10~ -10,000 V)

・正の電荷を持ったサンプル粒子は中央にある負の高電圧ロッドに引き付け
 られながら移動する。この時、電荷を持たない粒子はそのまま外壁に沿って
 移動し、④排気ポートから排出される。また負の電荷を持った粒子はロッド
 電圧からの反発力を受けながら移動し外壁に付着し捕集される。

・高電圧ロッドに印加された電圧に応じた移動度を持つ粒子のみが、ロッド
 下部にある⑤スリットに導入され、⑥単分散サンプル粒子出口から取り出さ
 れる。

③高電圧ロッドの印加電圧を変える事によって、スリットに導入される粒子の
 粒径を変える事ができる。

・印加電圧は、固定して使用することもできるが、高速で変化させCPCで計数
 させることで粒径分布計測器(SMPS)となる。

注) 粒径が同じでも、価数が異なると移動度は変わってしまう。
 つまり、同じ粒径の粒子でも、スリットに導入される粒子と、導入され
 ない粒子がある。
 DMAは、+1価帯電の粒子を対象とすることが基本設定となる。
 +1価帯電粒子の割合は、平衡帯電条件下では次項の通りであることが
 判っている。

SMPS計測原理(DMA:粒子サイズ分級部)-平衡帯電状態について-

DMA(微分型電気移動度分級器)の分級対象

・既定の中和器(軟X線など)を用いることで平衡帯電状態に調整可能

・+1価(赤枠)が計測対象

・-1価設定も可能

・粒径分布計測(SMPS)用ソフトウェアにて+1価帯電粒子の計測数を全体量へ 算出して出力可能

【参考】
TSI社製静電分級器モデル3082オペレーションマニュアル(REVISION E) p. B-8 より引用

SMPS計測原理 (CPC:粒子個数計数部)

凝縮粒子カウンター(CPC)は、サチュレーター部、コンデンサー部及び光学検出部から構成され、粒子検出部の原理自体は一般的なパーティクルカウンターと同じく、レーザー光を照射した対象粒子からの散乱光検出による。

①CPCのインレットから吸引された浮遊パーティクルは、既定温度に加熱されたサチュレーター部を通過する。そこで、凝縮液のアルコールは気化し、
 サンプルエアー中に拡散する。

②次に、浮遊パーティクルと気化したアルコールは、既定温度に冷却されたコンデンサー部を通過する。この時、アルコールが過飽和状態となり、
 浮遊パーティクルを核として凝縮する。

③アルコールで凝縮成長した浮遊パーティクルは、レーザーで検出可能な大きさに成長するため、個数計測が可能になる。

その他基礎研究事例(CO2 吸着液イオン液体の粒径分布計測)

イオン液体:
アニオンおよびカチオンのみで構成される液体。揮発性が無い、燃えない、電気を通すなどの性質を持つ。
CO2吸着能力を有するものもあり、単体利用やアミンと混合させた利用法などの研究が進んでいる。
イオン液体をミスト化し比表面積を向上させることにより、効率的にCO2を回収することが可能となるため、
ミスト化手法による粒径分布への影響を知るために粒径分布計測が求められる。

計測上の課題
・イオン液体は揮発しないため、計測装置内に残留し、故障の原因となる可能性がある。
・腐食性を有するイオン液体の場合、計測装置内部の耐腐食性が求められる。

イオン液体ミストの粒径分布計測装置として
エアロゾルスペクトロメーター Promoシリーズ

Promoシリーズ[エアロゾルスペクトロメーター]

・PALAS社Promoシリーズは、0.2~105 µmのエアロゾルの粒径分布計測装置

・256チャンネルの粒径分解能を有する。

・最大の特徴は、エアロゾルセンサーと、光源やスペクトロメータを有するコントローラーユニットが切り離された構造を有すること。これにより、エアロゾルセンサー内の清掃をユーザーサイドで簡易に行うことができる。

・エアロゾルセンサー内部でサンプルエアロゾルと接触するのはステンレス(またはアルミニウム)とガラスのみの為、ミスト状のイオン液体やオイル、腐食性ガス中の微粒子計測を行った場合も、使用後すぐにクリーニング可能。簡易校正もユーザーサイドで実施可能なため、継続的でシームレスな運用が可能。

測定データ例(粒径分布評価)

光散乱法(welas digital※Promoシリーズの同型機)で計測されたエレクトロスプレー法により生成されたイオン液体微粒子の粒径分布
(左:印加電圧別、右:印加電圧と流量別)

出典:高奈秀匡氏ら(2019) 科研費 研究成果報告書より
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-16H04262/16H04262seika.pdf

出典:Takana, H., Yamamoto, K., Makino, T., & Kanakubo, M. (2020).
Improvement of CO₂absorption by ionic liquid electrospray. EPL, 131(3), [34002].
https://doi.org/10.1209/0295-5075/131/34002

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