電子式低圧インパクタにおける粒子の跳ね返り対策と効果

概要

DEKATI社(フィンランド)が開発した電子式低圧インパクタELPI+は、コロナ放電による粒子の強制荷電と高感度エレクトロメータによる電流検出機能を備えたカスケードインパクタであり、データ収集速度10 Hzの速さでリアルタイムに6 nm~10 µmの粒径分布および濃度測定を行うことができる。チャージャ部を通過した粒子はサイズに応じた正電荷を持った状態で空気動力学的に分級捕集され、粒子の電荷によって各インパクタステージに生じる電流値を個数濃度に換算し粒径分布を測定する。また電流によるリアルタイム個数濃度測定のほか、アルミ箔などの捕集板を用いることで測定後に粒子サンプルの秤量による重量分析や化学分析も可能である。
捕集された粒子の帯電状態は速やかにニュートラルになるため、通常その後の電流測定に影響を及ぼすことはない。しかし、粒子の性質や捕集板表面の状態によっては、衝突時に粒子が跳ね返り下流側のステージに移動することがある。跳ね返り後の粒子の帯電状態は必ずしもニュートラルではなく、跳ね返りが起こったステージおよび下流側で実際に捕集されたステージで検出される電流値に影響を与えると考えられる。
一般に、カスケードインパクタでは粒子の跳ね返りによる重量分析の誤差を防ぐため、粒子捕 集効率を高める目的で捕集板表面にグリスなどを塗布することがあり、ELPI+はグリスを塗布し た捕集板でのリアルタイム電流計測にも対応している。また多孔質の焼結金属に真空オイルを含侵させた捕集板(シンタードプレート)を用いることで、捕集粒子の隙間にオイルが毛管現象によって浸透し、オイルによる粒子の跳ね返り防止効果が持続することが期待される。
本レポートではアルミ箔、グリス塗布アルミ箔およびオイル含侵焼結金属を捕集板として用いてELPI+で試験エアロゾル粒子をサンプリングし、電流測定の結果から捕集板の違いによる粒子跳ね返りの低減効果を確認した。
   
試験日時:2022年1月

試験手順A:以下のフロー図が示すように円筒チャンバ内に飛散させた酸化セリウム(Ⅱ)粉体をELPI+でサン プリングし測定を行った。連続的にサンプリングしながら、粉体供給ラインのバルブを閉じて 粉体を適量詰めたチューブを接続し、バルブを開けて吸引される空気によって粉体をチャンバ 内に飛散させた。

試験手順B:以下のフロー図が示すようにエアロゾルアトマイザーを用いて PAO (ポリアルファオレイン)を噴霧
し、ELPI+ でサンプリングし測定を行った。

試験機器:

  1. 試験粒子:①酸化セリウム(Ⅱ)粉体
          発生方法: ELPI+サンプリングによって吸引されるエアでチャンバ内に導入・飛散
         ②PAOミスト
          発生方法: TSI社 エアロゾルアトマイザー(モデル3079A改)
          発生流量: 約3 L/min(エア)
  2. 測定器 :DEKATI社 電子式低圧インパクタ(ELPI+)
          ・サンプル流量:10 L/min(最下段圧力を40 mbar±5 mbarに維持)
          ・捕集板:アルミ箔、グリス塗布アルミ箔、オイル含侵焼結金属

結果及び考察

酸化セリウム(Ⅱ)粉体の測定
1-1 アルミ箔(リンク先参照)
・測定開始直後から、チャンネル1および2(6~31 nm)を除くほぼ全チャンネルでマイナスの電流が計測された
・後述の1-2および1-3の結果から、酸化セリウム(Ⅱ)粉体の大部分は1 µm以上に分布しており、6~31 nmの正電流は粒子が正しく分級捕集されたのではなく、上流側のアルミ箔捕集板で跳ね返った粒子に由来すると考えられる。 ・以上より、電流測定が正常に行われず、粒径分布を正しく測定することはできなかった。

1-2 グリス塗布アルミ箔(リンク先参照)
・チャンネル8~14(0.383~9.91 µm)において正電流が計測され、それ以下のチャンネルの電流はほぼ0 fAであった。
・一度に飛散させる粉体量に応じて電流値も変化したが、電流分布および粒径分布の形状は大きく変わらなかった。

1-3 オイル含侵焼結金属捕集板(リンク先参照)
・チャンネル9~14(0.605 ~9.91 µm)において正電流が計測され、それ以下のチャンネルの電流はほぼ0 fAであった。
・グリス塗布アルミ箔同様、粉体の量による分布の形状への大きな影響は見られなかった。

1-2および1-3の測定結果の粒径分布範囲、モード径は概ね一致しており、また極端な負電流も測定されなかったた
め、両者は粒子の跳ね返りの影響なく正常に酸化セリウム(Ⅱ)粉体の粒径分布を測定できたと考えられる。

PAOミストの測定(リンク先参照)
アルミ箔、オイル含侵焼結金属のどちらの捕集板を用いた場合も、同様の測定結果を示した。
・チャンネル3~14(31 nm~9.91 µm)の広い範囲で正電流が計測され、チャンネル1~2の電流はほぼ0 fAであった。
・微小粒子の拡散ロス補正*を考慮した電流分布を基準に計算された粒径分布は6 nm~3.67 µmの範囲であった。
*ELPI+ソフトウェアの機能で、生電流値(Original)の粗大領域は低く、サブミクロン領域は高く自動的に補正され、粒径分布への換算はこの補正後の電流値(Corrected)を基準にして計算される。
・測定結果の分布形状が概ね一致していることから、両者ともにPAOミストを正しく測定できたと考えられる。

結論

・グリスを塗布していないアルミ箔を捕集板に用いて
ELPI+ 測定を行う場合、酸化セリウム(Ⅱ)のような粗大な固体粒子
は捕集板上での跳ね返りが起こり易く、負電流が生じ測定結果に悪影響を与えることが懸念されるが、グリス塗布や
オイル含侵焼結金属捕集板を用いることで跳ね返りを低減させることができる。
・PAO のような液滴エアロゾルを ELPI+ で測定する場合は、グリスを塗布していないアルミ箔でも粒子の跳ね返り
影響を受けることなくオイル含侵焼結金属捕集板と同様に正しく測定するとができる。

試験結果1-1
酸化セリウム(Ⅱ)粉体@アルミ箔
試験手順Aを使用

試験結果1-2
酸化セリウム(Ⅱ)粉体@グリス塗布アルミ箔
試験手順Aを使用

試験結果1-3
酸化セリウム(Ⅱ)粉体@オイル含侵焼結金属
試験手順Aを使用

試験結果2-1
PAOミスト@アルミ箔(グリスなし)
試験手順Bを使用

試験結果2-2
PAOミスト@オイル含侵焼結金属捕集板
試験手順Bを使用


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